TENGA VOICE

大橋 仁

#38

大橋 仁 写真家

TENGAの開発過程なんて記録したら、映画とかできるよね。

今回のTENGA VOICEは、写真家大橋仁氏が登場。写真集『目のまえのつづき』や『いま』で、写真というもののリアルな力で多くの衝撃を与えてきた写真家・大橋仁の最新作『そこにすわろうとおもう』が刊行され、さらに多くの人に衝撃を与えた。

今回の写真集を刊行するに当たってイメージしたものとは?

「一番最初にイメージが浮かんだ時は、ガリガリの裸の白人が俺を覗き込んでいて、後ろには裸の男女が永遠と列をなして僕を誘うわけですよ。草原みたいなところに木の小屋があって、ろうそくみたいな明かりがついてるんだけど、その小屋の中で十数人がセックスをしてるのね。壁側には二段の物干竿があって、そこに人間の死体が洗濯物みたいにびっしり干してある。壁も地面も完全に肉で埋まってる世界に通されたわけ。死んでいる肉体と生きてセックスをしている肉体、それらが一つの肉団子になる。それを自分で実現したいと思ったんです。写真の中で彼らは人ってより、一人ひとりが一つの細胞のようで、遺伝子の配列のようで、一人ひとりは人間の形をしているんだけど、実は体内に入っちゃってるみたいな。俺もみんなもその体内に入っちゃってる感じなんだよね。だからヌードを撮ってるって感覚ではなかったかな。前半の乱交とかは自分の体内の記録というか肉と肉のぶつかり合いという部分だったんですけど、中盤以降は自分の中の精神の部分というか感情に近い部分ですよね。光と影じゃないけど、明るいところだけ映すとか汚いものだけ映すとか幸せなものだけ映すっていうのが嫌で、光と影があって、初めて物体も精神も立体的に見えてくる。写真の構成に関して理屈はいつもないんです。気持ち良さで、ある意味貫かれている感じかな。僕がエレベーターに乗ろうとして扉が開いた時に、既に乗っていた数人の女の子たちを撮影した写真があるんだけど、そこに映っている女の子たちの顔には、驚いたような、不審がるような、でも好奇心があるような表情を浮かべているんですよね。この子たちのこういった表情や目線というのは、自分が他の人間に対する目線でもあるし、いろんな人がいろんな人に対してするような共通性のある視線というか、この子たちの目線って凄くピュアな好奇心を感じるし、そういうものが乱交など肉の写真と並ぶのも自分の中では自然なこと。だって人は常に頭の中のイメージでありとあらゆる瞬間を細切れにして並べ替えて、いろいろなことを想像するものだしね。人は乱交の後にスーパーの陳列棚の写真が出てきたら、何でなんだろうって考えると思うんだけど、この乱交をした人たちやその撮影をした俺は、その夜に帰ってきてスーパーで買ったラーメンを茹でて食べるわけなんですよね。それも一つの生活じゃないですか。生活や人生や人間を撮ろうと思うのであれば、どうしてもこうやって森羅万象を撮らないと自分は形にならないと思っているんだよね。だからごくごく自然な並びだと思ってる。」

今後、写真に取り入れたいものを教えて下さい。

「人間って気配みたいな “気” みたいなものを感じる事ってあるでしょ? 怒ってる時とか、悲しんでる時とか、人に潜んでる “気” ってものがあるでしょ。自分の中でも何かが芽生える前の気配っていうのがあって、人って探りながら生きてるし、人からはそういった目に見えないエネルギーのようなものが常に発散されていると思うんです。そういったエネルギーのようなものも、写真に取り入れたいという気持ちはある。忍び寄る気配とか凄いよね。目に見えない何かに人間って凄い支配されていると思うし。」

TENGAについてはどういう印象ですか?

「TENGAの開発過程なんて記録したら、映画とかできるよね。内部の構造とか何でこうなったんだ?とか、もはや宇宙を感じる出来映えだし、本当にオナホール界では、革命的商品ですもんね。実際、撮影現場とかでスタッフと話していて「俺、最近TENGAばかりで、セックスしてないですもん」って人もいたりとか(笑)。「TENGAにはイった先がある!」って熱く語ってた人もいたもん。ある現場で20人くらいいたメンズに「TENGAやったことある人」って聞いてみたら、みんな手を挙げていたもんね(笑)。自分の快楽や快感みたいなものに純粋に従っていくって生き方は、ある側面、破滅的かもしれないけど、その人それぞれに、より豊かな想像力や感覚を芽生えさせてくれるかもしれない。危険かもしれないけど、チャンスでもあると思う。退くのか、進むのか、どっちを選ぶかは、その人次第ってことになる。人生答はないわけだし、それが面白いところだと思うんですよね。」

 

<「FLJ Magazine – TENGA Friends Vol.29」より http://www.fljtokyo.com/
※こちらは2013年5月発行のFLJ転載記事となります。

大橋 仁

大橋 仁 写真家

1972年神奈川県出身

1992年canon写真新世紀優秀賞受賞。 写真集「目のまえのつづき」(1999)「いま」(2005)「そこにすわろうとおもう」(2013)を刊行。  雑誌、CDジャケットや広告、CMやPVの撮影も幅広く手がける。

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